墓参りを済ませた貞慶は、神楽の都にある三好邸へと歩を進めていた。
目指す先は都の北東にあり、旗本などの屋敷が立ち並んでいる。
ここは閑静な場所ではあるが、人通りは少なくない。市井の人が貴族を頼りにして嘆願に来たり、朝廷からの命を受けた役人が行き来するなど、それ相応の賑やかさがあった。
「お姐ェさ〜〜ん!!」
貞慶の背に、やけに通る声がぶつかる。
それを聞いた周囲の者は一様に動きを止め、とっさにその声の主に目をやるが、すぐに何事もなかったように動き出した。どうやら、いつものことだったらしい。
「そろそろ来る頃だと思ってたよ」
「はい! 三河屋のライカ、本日も御用聞きに参りました!」
実に商魂たくましく聞こえる台詞だが、屈託のない明るい笑顔で全てが愛嬌になっているのだから、何ともすごいものだ。
三好家の御用商人「三河屋」の看板娘にして元気印。そして幼少から貞慶を知るのが、この三河屋ライカである。
父は三河雷蔵、母は華菜。本名は蕾華。
ふたりの年の差は二つほど。貞慶が姉貴分で、ライカが妹分。
父親の雷蔵は「幼いライカを御用聞きの練習に行かせたつもりだったが、いつしか主従関係ではなく、仲のいい友達となっていた」と回顧する。
とはいえ、ふたりが茶屋で団子を頬張れば、支払いはいつも貞慶に任せるという、ライカのちゃっかりした部分もあるのだが。
「しかしお姐ェさん、大伴様のお墓はいつも華やかですねぇ」
ニコニコするライカの横で「急に何を言い出すのやら」と思いながら、貞慶は口を開く。
「よく知ってるな……と言いたいところだが。足しげく墓の周りを掃除に行ってるライカには当たり前の光景じゃないのか?」
ライカは、よく出来た妹分だ。
三好に縛られた貞慶の手の届かないことは全てこなす。別に声を掛けてくれれば、一緒にすることでも……
「この頃に旅を終えた開拓者さんが、まだまだお墓参りにいらっしゃるんですよ。お姐ェさんの尊敬する大伴様のためなら、この三河屋ライカはいつでもお掃除に参ります」
ライカは小さくお辞儀し、貞慶を見据える。その時の顔に笑みはなく、凛とした瞳と表情を浮かべていた。
この時ばかりは主従……いや、姉の意を汲むできた妹、といったところか。
しかし、それもすぐに笑顔に変わる。
「そういえば! お姐ェさん、あの人気の旅芸人、小和田頑十郎一座が都に滞在してるそうですよ!」
昔から貞慶は、世間の動きや人気……いわゆる天儀の情報をライカから聞くことが多かった。彼女はミーハーというか、地獄耳というか……不思議とそういうところがある。
「もしかして、それ……この前の御前試合で話題になってたアレか?」
「アレです、アレ! 天元征四郎と相対した時の!」
ライカはその辺に転がっていた細い木の枝を持ち、何やら口上を始めた。
