プロローグ02 ~天儀の地にて~


 大伴定家の墓は、神楽の都から少し離れた墓地の一角にあった。
 ふと見上げれば、果てしない空の青が視界いっぱいに広がる。遺書に残した風景が手に届く場所に、大伴翁は眠っているのだ。
 開拓者が墓地に赴けば、彼がどこにいるのかは一目瞭然。墓地の外れの少し小高い丘に、朝廷の威厳を誇示するかのような大きな石造りの五輪塔が設置されている。その周囲には、いつも穏やかな色、鮮やかな色の花々が手向けられていた。

「よぉ、叔父貴。新しい住まいには慣れたかい?」
 凛とした女の声が周囲に響く。彼女は腰の刀を手に持ち、供物の隙間を縫ってどっかりと座り込むと、相手の返事を待たずに話を続けた。
「ここはいつも花盛りじゃないか。ま、慕われてるのは知ってたけどさ。さすがはアタシの叔父貴だ、格が違うってヤツだな」
 そう言いながら、彼女は髪に挟んでいた白い花を手向ける。
「アタシが死んだって、こんなに花は来ないよ……なぁ?」
 彼女は紫色の長髪を指でかき分け、屈託のない笑顔で微笑んだ。

 彼女の名は、三好貞慶。
 恵まれた体躯の女サムライで、開拓者を生業としていた。ただ、たったそれだけで、大伴定家を「叔父貴」と呼ぶにはあまりにも気安すぎる。
 そう、彼女は開拓者である以前に、実は朝廷の関係者であった。三好家は豊臣家の遠縁にあたり、派閥としても豊臣派に属している。
 貞慶も一翼を担うべき人材ではあったが、いかんせん生まれは三好現当主の四女……さすがに末の娘あたりになると、ある程度の融通も利くものだ。だからこそ彼女が若くから朝廷の権威を狙うよりも開拓者を目指したのは、ある意味で自然な流れと言える。その下りについて、本人は「アタシ、学がないからさ」という理由を吹聴しているが、学問の出来は兄弟姉妹の中ではかなり上位であったそうだ。
 そんな貞慶は、開拓者ギルド総大将の任を引き受けていた頃の大伴定家の邸宅へ足しげく通い詰めていたという。その頃から、大伴翁を「叔父貴」と呼んで慕い、土産話をじっくりと聞いたり、自分の剣術稽古の成果を見せたりと、決して短くはない時間を楽しく過ごしていた。
 開拓者になった後、合戦などで遠くに互いの姿を認めれば会釈するくらいの距離感になっていたが、今はもう昔のように隣に座って喋っている。

「アタシも行こうかな、第四次開拓計画。面白そうだもんね」
 叔父貴が望んだ空を舞う……それもいいかと考えていた。しかし、仮にも三好家の者が軽々に天儀本島から出るなど、容易であるはずがない。
「ま、叔父貴は心配しなくていい。今のアタシは、開拓者だ」
 羅針盤は自分の心にあるとばかりに胸を叩き、決意の程を大伴翁に見せつけた。
「さてと、また来るよ。叔父貴のおかげで、今は開拓者も随分と忙しい。その様、そこからじっくり見てるといい。少なくとも飽きないさ」
 貞慶はケラケラ笑うと、愛刀を腰に備え、ゆったりとした歩調で動き出した。
「また来るよ、叔父貴」
 そう言って、彼女は五輪塔を背にし、手を振りながら去っていった。