プロローグ01 ~始まりの空へ~


 天儀歴1019年5月。
 その日の天儀は、澄んだ空気に満ちた快晴であったという。

 数ヶ月前、長らく開拓者ギルドを率いていた総大将・大伴定家が亡くなり、喪が明けてすぐ、名うての開拓者が新たな総長に着任した。
 新総長が早々に執った施策のひとつに、「新たなる儀の発見を目指す」というものがあった。表向きは開拓者の食い扶持を維持する目的で……と各所に匂わせていたが、実のところはそうではない。
 この意向、いや、この意思は……大伴翁の遺書に記されていた。
『わしが開拓者ギルドで指揮を執っていた頃はいつも開拓者たちを頼り、幾度となく天儀の危機を救ってもらった。その恩返しになるとはとても思えないが、わしはこれからの開拓者に羽ばたいてほしいと考えた。この青い空を駆ける者たちの夢を我が物のように胸に抱き、見慣れた天井を眺めながら、わしに残されたわずかな時をゆっくりと過ごそうと思う。後のことは頼んだ』
 彼は見果てぬ空に願いを託し、この世を去った。
 開拓者たちの精神的支柱でもあった大伴翁を惜しむ声を遮るかのように出された唐突な方針。新総長は批判も覚悟の上での表明であったが、なぜかそれを咎める者は少なく、すんなりと飛空船の手配などが始まったという。
 もしかしたら、その意思を伝えずとも、誰もが理解していたのかも知れない。
 これが実を結び、後の世では「大開拓時代」と呼ばれるほどの成果に繋がった……というのは、まだ先の話である。

 仮称「第四次開拓計画」を現実のものとするべく、各国が協力体制を敷き、かつてない規模で開拓への準備が始まった。
 さりとて、それは一枚岩というものでもない。それぞれの国には、さまざまな事情を抱えている。そんな諸問題から目を逸らしたい、もしくは解消したいという思惑も当然あった。新たなる儀の発見が早ければ早いほど、開拓者のみならず天儀内外への絶大なアピールになる。そのせいで、足の引っ張り合いも散見されたが、肝心要ではさすがに角を立てず、お互いに譲り合うことで、何とか計画を前へ進めようと尽力していた。やはりこの辺は、「大伴翁への義理立て」という恰好で落ち着いたと言われている。


 開拓者が新たな空に羽ばたこうとする活気に満ち溢れたこの時から、すでにゆっくりと始まっていたのだ。
 嵐と闇に抱かれた無垢なる瘴気が、誰も望まぬ目覚めを待っている……