ゲームPBW「ネノクニ」 大人の祓魔師「佐原 景」の日常
SNSで転がっている診断を触ってみる。
性格診断らしい、なんとなく暇だからタップしていく。
つまらない人生だと思う。
どちらかといえばはい。
人生は順調だと思う。
どちらかといえばいいえ。
今を楽しく思う。
どちらかといえばいいえ。
――そうして、出る結論はいつも『|半端《はんぱ》|者《もの》』という結果だ。
●
|佐原《さはら》 |景《けい》は慌ててジャケットに袖を通し、駆け出そうとする。
――急に連絡が来るんだから、もう……!
|商工《しょうこう》|会《かい》の|祓魔《ふつま》|課《か》から鳴る電話に、はいはい、とだいぶ適当に|応《こた》える。場所はここから近い、だから行かないといけない。
「オウマが出たって?」
「みたいです! 今出ていいですか!」
「|勿論《もちろん》~」
ひらりと店長から手を振られて、|景《けい》は「ありがとうございます!」と言うと|年屋《ねんや》不動産|平坂《ひらさか》支店から飛び出す。どこかのんびりと見送る年季の入った店長も昔はフツマだったとか聞いているから話が早い。ともあれ、今はとりあえず目先の『仕事』である。
駆けつけた先ではすでに|御鷹《みたか》 |純《じゅん》と|西皇寺《さいおうじ》 |勝《まさる》が交戦状態にあった。腰を抜かしている男性に、|景《けい》は「立てますか!」と声をかける。
「と、突然現れて……」
「そういうもんです! ええと……」
「|景《けい》さーん! こっちが対応するよ!」
|夏川《なつかわ》 ふゆみが|景《けい》に声をかけると、ふゆみは男性の手を引いて「こっち!」と安全区域へと連れていく。どうやら|平坂《ひらさか》|町《ちょう》の|外《そと》の人間らしい、たいそう驚いた様子で|居《い》た。それでいて、どこか好奇心のような色が目に宿っている。
――自分が初めてオウマと|遭《あ》った時もああだったなぁ……。
そう目を細めてほんの少しの間、|回顧《かいこ》する。
●
「はぁ~……」
|年屋《ねんや》不動産|平坂《ひらさか》支店への異動が決まったのは2月。繁忙期で手が回らないからと、首都の本店から向かうことになった。成績は順調であったというのにこんな田舎に|越《こ》す羽目になるとは思わず、人目につかぬように重苦しいため息をつく。
店長は良い人だった。他の店員も良い人だった。それは幸いだったけれども、致命的につまらない。ここにある娯楽はテレビにSNSくらい? そんなの日本の文化圏がある場所ならどこでも|享受《きょうじゅ》できるじゃないか。幸い、コンビニはあるけれどもね!
「……ぐえ」
自宅で酒を飲んでいて足りなかったから、コンビニへ追加の酒とつまみを買った帰りだった、何かにシャツの首元を引かれてそういう情けない声が出た。振り返れば黒い|塊《かたまり》の、モヤのような|異形《いぎょう》の姿。思わず叫び声を上げようとして、目の前を|颯爽《さっそう》と走る学生達の姿があって――。
「は、はは……」
思わず笑い声が出た。火だの光だのを出して戦う少年達! ……まるでゲームの主人公のようだった。いやに鮮明なまぼろしだ。面白い酔い方もあるもんだなぁ、そう思っていると声をかけられる。
「無事ですか! 引っ張られていたようですが――」
「え、は? え?」
気がつけば『戦い』は終わって、少年達は心配そうに|景《けい》を覗き込んでいた。
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駆けつけた先で|純《じゅん》が光で相手を照らす。光で照らされるごとに自分達の影は濃くなっていく。
「数が多いな……」
|勝《まさる》が炎で相手を|薙《な》ぎ|払《はら》いながら舌打ちする、が、駆けつけた|景《けい》を見やり、それから頷いた。
「一発、かましてくれますか!」
「ようし、畳み掛けるよ――!」
足元の影が色濃くなると、一歩靴でそれを踏むとおびただしい数の刃となり、相手へ突き刺さる。オウマは悲鳴を上げて、その身体を萎縮させる。
「|勝《まさる》!」
「ああ――!」
オウマの勢いが減り、がら空きの今、|勝《まさる》の|炎《ほのお》の|槍《やり》がルツボを両断する――!
「これで終わり、か」
|勝《まさる》は周辺を見て、オウマがすっかり居なくなった町の景色を見る。不吉な|紅《くれない》の|天候《てんこう》も元通り。
――影もまた、なりを潜めて。
「助かりました、|景《けい》さん!」
「相性バッチリで良かったよー、僕の|力《ちから》やみやみしくて不吉だから使うのためらうんだけどさ~」
「まぁまぁ、そんな|卑屈《ひくつ》にならず」
|純《じゅん》からの言葉に「だって闇から力を出すなんて、悪役みたいな力じゃん!」と、|景《けい》は肩をすくめながら、時計を見ておっと、と声を上げる。
「ヤッバ、物件の内覧の時間が近い……! それじゃあ詳しい報告は君達に任せるからー!」
「あっ、はーい!」
|純《じゅん》は慌ただしく去る|景《けい》を見送る。|勝《まさる》はそんな様子を見て腕を組んでいた。
「……」
「どうした? |勝《まさる》」
「いや……いつも、|景《けい》さんには|何《なに》か|違和感《いわかん》があって……」
「うーん? ……|大人《おとな》だけど忙しい合間を|縫《ぬ》って良く戦ってくれる人じゃないか」
「そうなんだけれども……」
――何故だろう、あの人は、それを楽しんでるように見える。
●
実際のところ、この『戦い』は楽しいものだった。善意? 悪意? それでボーダーラインを敷くなら、おのれは|悪意《あくい》を持つ人間に決まっている。誰かの悲劇が自分の楽しみだ、SNSで炎上を追ったり、テレビでスキャンダルを見たり、そんなことをしているのだから|力《ちから》にだってそういう側面が現れたんだろう。眩しいあの子達とは全然違うんだ。
――……でも、少しばかり自分の|善性《ぜんせい》も信じてみたいと思っている。あの子達は眩しいほどに『誰かのため』に戦っているのだから、自分だって。
でも、彼らは、自分と違って明確に――。
「退屈させないでくれよ、ヒーロー」
そう、ヒーローなのだ、自分はあくまでヒーロー『|気取《きど》り』なだけ。
診断結果の|半端《はんぱ》|者《もの》が心にしこりを残す、|善《い》いことをしたって、自分が気持ちよくなりたいだけなのだから。
――世の中は|善悪《ぜんあく》のみでくっきりと白黒をつけるにはあまりにも多様が過ぎる。
|強《し》いていうのであれば、この|佐原《さはら》 |景《けい》という男は|自認《じにん》こそ|悪意《あくい》のある人間であるものの、実のところは白に近いグレーラインに立つ男である。誰かを|害《がい》する気持ちはない、ただ現状が楽しければそれで。それがどんな物語を引き起こすかは、今は|未《いま》だ知れず。